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Marcia funebre


【Marcia funebre】


 そこは戦場であった。
 大国、強国、様々な呼び名はあるが、所詮は人の性。己の利権を求め、己の欲がため、また己の正義がため、隣り合った二国家は争いあった。
 もはや原因は知らぬ。ただ両国ともに争いを好んでいたわけではない。すれ違った考え方はそう簡単には訂正は出来ぬという、それだけの話。
 王は命じる。我々こそが正しいのだ、と。己が信念を貫け、我々に勝利の栄冠が輝かんことを。ならば、進め―――。
 互いの王は、間違うことなど決してないと言われる賢王と賞されていた。そう、後に歴史を語り継ぐものは言う。敵のいない戦であった、と。どちらも正しく、それゆえに間違っていたのだ、と。
 しかしだからこそ騎士は止まれぬ。
 己が信じ、前へ。
 そこは境界であった。
 敵国との、はたまた夢と現実の。
 数多くの剣が砕け、また散っていった。
 それは墓標ではない。
 血に錆びた剣も紅の日に照らされた。
 落ちた影には鋼の道。鎧も剣も―――人も。
 その山の上に立つものこそ現実。夢の跡は地表に無数の傷を残した。
 それは互いに。
 対峙した最後の騎士は問う。
 「主は何故ここに立つ?」
 「己が誇りの為に。散っていった仲間のために」
 過去に剣聖と呼ばれた騎士は答える。今や競う相手などいないのだから。
 「誰も彼も、間違っていたものなどいなかった。だからこそ、ここでそれが決まるというのだろう」
 悲しいことだ、ともう一人の騎士が言う。彼もまた、その国の剣聖とよばれた。
 「どちらの世界も、その輝きは純粋だ。そこに意味を求める事こそ、人間の傲慢というものだ」
 この世界は強大な二つの世界より力を授かった。それはどちらも強大すぎるほどの力。なぜそんなものが同時にこの世界に接触したのか。
 強大すぎるが故に互いの力は反発し、また同じ道を辿る。
 その力の均衡がため、片方が離れれば、同じだけもう片方も離れた。片方が近づけば、必然にもう片方も。
 だからこそ、何の力も持たぬこの世界は崩壊へと導かれてゆく。
 「我々は力を手放す術を知らない。だから世界を守るためにはもう片方の力を退けなければならぬ」
 「我々のどちらが勝ったところで異変は止まらないだろうが。一度退けたところで先延ばしにしかならぬ」
 「しかし、勝った方が正義だろう。それがどちらであってもな」
 二人の騎士はそれぞれの剣を抜く。
 それはそれぞれの世界の結晶。
 最強の二振りの剣。
 それぞれが己の大切なものを守るために。
 「いくぞ、親友よ」
 果たしてどちらが言った言葉か。
 その世にも美しき二つの剣の刀身は煌びやかに、その二人の結末を見つめていた。

 どちらが勝ったのか。そもそもどちらの剣、どちらの力が正義でもない。
 残った力はこの世界に止まり、しかし退けられた力もいずれは引き寄せられる。
 真実など、まがって伝えられるものだ。
 悠久の時が過ぎ、人々の記憶から薄れたころ。また世界は動き出す。
 悲しき性。のちにこの世界を震撼させし退けられし力の結晶は、『魔剣』と呼ばれる。
 永久に終わらぬとされる物語。時の境目に現れ、世界を幾度も救うこととなる力の結晶。
 人々に忘れ去られし頃に現れし希望を、人々は『聖剣』と呼ぶようになる―――。


 「さて、私が語るのはここまでだ」
 語り手の老人は静かに口を閉じる。
 「私に、どうしろとおっしゃるのですか」
 その少女は剣を抱えたまま老人に聞く。今にも泣き出しそうな、不安げな表情である。
 「先にも言ったろう?これが真実である保証はどこにもない。得てして、人々は既にその存在を忘れているのだから。」
 老人はそういって、しかし笑った。
 「こんな世界の境目に、まさかお嬢さんのようなかわいい子が伝説の『聖剣』の守り手をしてるとは思わなんだ。死ぬ前にまさか会えるとはの」
 世界の境目・・・・・・全ての世界の突端に一本の塔が立っている。
 これも御伽噺の一つ。誰一人としてその真実を知るものはいない。
 「守り手・・・・・・私のことですか?」
 「そう、もし君が持っているものが『聖剣』で、ここが『地の端の塔』だというならば、君の一族が『守り手』と呼ばれる方々ではないかの?私の語った英雄の御伽噺の後にはこう続く。・・・・・・世界を切り離した力は強大すぎた。英雄はその力を人の欲望に使わせないため、剣の『鞘』となるべきものを探した、と。世界の結晶、その力を封じるほどのものを探すことは困難を極めた。その末に、世界の果てに住まう、この世界の者ではない力をもつ一族に『聖剣』の守り手として剣と自らの命を捧げた、と」
 老人は静かに、一抹の物語の最後を締めくくる。
 この物語は作られたものであるのだろうか。英雄譚という言葉が似合わぬほどにその物語の終わりは若干の違和感を残す。
 「私は、そのような話はまったく聞かされた覚えがありません・・・・・・」
 少女はただただ、その老人の話を聞いていた。不安に曇る表情で、その等身大の剣の刀身をそっとなでる。
 「ここは世界の境目、世捨て人が最後にたどり着く場所だと、私は伝え聞いています。この剣と、この塔は神々の残した最後の遺産。人の目に決して触れてはならぬと」
 それはかつて少女が母より伝え聞いたこと。幼き日の彼女にはよくわからなかったのを未だに覚えている。
 老人はそれに応じるように言う。
 「その剣を君が『聖剣』だというならば、その理由も納得できる。この世界には過ぎる力じゃ。主の言う神々というのが、先ほどの私の知る伝説の片方の世界の事かもしれぬ」
 「お爺さん、ここは人の辿りつけぬ場所。少なくとも、私は一族の者以外に人を見たことがありません。きっと貴方がここに来たことにも意味があるのでしょう」
 なにかを見出したかのように少女はいう。
 いままで見たことのない外の世界のことだからか。その表情から内面までは窺い知れない。
 老人は静かに目を閉じ、そして少女に諭すように言った。
 「もう何十年、何百年も伝えられてきた話だ。真実ではない可能性のほうが高いだろう。しかしそれでも、君が自分のここにいる意味を知りたいと願うなら・・・・・・」
 老人は不意に言葉を切って周りを見回した。世界の果ての塔、その中はただ真っ白な空間。簡素なベットと最低限の家具。外の世界と比べれば、それは余りにも古めかしい。
 こんな場所に一人で、しかもそれを疑問に思わず住まう少女に、掛ける言葉などあるのだろうか。
 「私がここに来た事に意味を見出すのは私ではない。真実を探すもよし、嘘だと切り捨て、今までの生活を送るもよし。・・・・・・好きにしたまえ、何も知らぬ『聖剣』の守り手よ。これは死にゆく私のお節介なのだから」
 老人はそう、少女に伝えた。
 決して自分の意見を言うことはない。自分はあくまで古き時代よりのメッセンジャーというだけの立場だ。
 もう、十分だ。

 あとの物語はきっとまた誰かが紡いでゆくことだろう。
 きっとまた誰かが伝えてゆくことだろう。

 そう。

 この後の物語を紡ぐのは『聖剣』を持ちしお前なのだから……。




 〜終〜



 タイトルのMarcia funebreはベートヴェンの交響曲第3番変ホ長調『英雄』の第二楽章より取らせていただきました。
 第二楽章は葬送行進曲で、葬儀において遺体を墓地まで搬送するときの行進をモデルとして作曲されているそうです。
 英雄譚と、それを伝え、死に行く老人のメッセンジャー、さらにそれを受けて一人、まだ見ぬ世界へと飛び立っていこうとする少女。
 ちょっとぴったりかな、とおもって拝借させていただきましたw

 なかなか衝動で書いてる感じが自分の中にもあるのですが、短編にまとめようとするとなかなか大変で^^;
 正直、説明不足(というか伏線張りまくってこれで完結?)的な読後感が俺自身にもあったりします;;

 うむぅ、次はがんばらねば。。











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